リベラルアーツの大学教育【大学授業編】

Liberal arts education

こんにちは。ケンズです。

リベラルアーツの大学ってどういう授業をしているの?授業の進み方について教えて欲しい。課題はどれくらいあるの?受けた感想を聞きたい。って思ってませんか?

本記事ではこういった疑問にお答えします。

リベラルアーツの大学卒の私が詳しく解説します。

リベラルアーツ教育ってなんだろう?って人はこちらをまず読んでください。>>リベラルアーツ大学教育【基礎知識編】

本記事の内容

  1. 授業
  2. 授業の進み方
  3. 実際の授業

1.授業


リベラルアーツの大学生活で中心となるのが授業です。学生が大学に通う最大の理由は勉強をして優秀な成績を収めることです。それは自分の将来に役立つと分かっているからです。そのため日々の授業と課題をこなすために多大な勉強時間を費やしています。授業の方式もリベラルアーツ特有なので解説していきたいと思います。

「勉強量が多いのか、嫌だな。。授業方式も違うのか。。難しそう」って思うかもしれません。でも怖がる必要はありません。授業の進み方を理解すれば慣れてしまうもの。では、さっそくリベラルアーツの大学の授業を見ていきましょう。

授業の形式

まず授業の形式について解説していきたいと思います。授業の形式は大きく分けると3つあります。それが「講義」「少人数の授業」「ラボ(実験)」です。

講義

講義のクラスは約50~100人の学生が受講します。通常これらのクラスは基礎コースに多いのが特徴です。講義式の授業はどちらかと言うと先生の解説を聞いている時間が長いので議論が少なめになります。ですが、たまに先生が質問などを教室に投げかけることもあるので完璧に受け身という訳でもないです。

少人数の授業

リベラルアーツの大学ではこの少人数制の授業が圧倒的に多いです。クラスは約10人~20人程度。こじんまりとした教室で授業を受けることになります。教授が指導する少人数の授業では講義とディスカッションの両方が含まれています。ですが、割合としてはディスカッションが多めになります。

ラボ(実験)

ラボのクラスは理系科目とセットになっていることが多いです。学生は授業で学んだことを実験室に移して検証します。たとえば、生物学のクラスで動物の解剖学と生理学を学んだあとに実験室で解剖などをします。もしくは物理の授業であれば物理法則を確かめるために実験道具で検証します。

授業に臨む前に

まず教室に到着したら好きな席に座って先生の到着を待ちましょう。授業に持参するものはノートと筆記用具の2つだけで大丈夫です。もちろん先生からそのほかの資料の持参を求められることもあります。授業の初日であればシラバスが配布されます。もしくは授業システムに掲載していることもあります。なのであらかじめシラバスを確認しておくと授業内容が分かるので見ておきましょう。

たいていの授業では次の授業のための課題が課されることが多いです。課題はいくつかの種類がありますが一般的なのが論文などの読み物の課題です。これをリーディングアサインメントと呼びます。(後で詳しく解説します)なのでしっかりと読んでから授業に出席するのが前提となるのを忘れないようにしておきましょう。

授業の雰囲気

先生の性格や授業の方針によって多少変わりますが雰囲気は穏やかでみんなリラックスしています。教室への飲食は持ち込んでも大丈夫ですが先生によっては禁止していることもあります。先生の解説以外の時間はなにかしらの議論が行われます。なので基本は黙って話だけを聞いて授業が終わるということはないです。そして、先生も学生の発言を頼りに授業をしているのでみんな積極的に参加しています。

授業の科目

授業の科目は文系と理系科目の両方を履修する必要があるので幅広い学習をすることになります。たとえば、「芸術」「学際」「社会科学」「人文社会」「自然科学」などから科目を選ぶことになります。1~2年生は基礎、中級程度の授業を受けます。そして3~4年生は上級クラスの授業を受けることになります。

リベラルアーツの大学特有の授業など珍しいものもあります。例えば、ワインの授業や楽器制作の授業などもあります。授業中にグループワークなどをすることで内容の理解を深めるということもします。

2.授業の進み方


リベラルアーツの大学の授業は「1.教科書を読んでから授業に参加」➡「2.授業では先生の話を聞くことに集中(メモは要約程度)」➡「3.議論(ディスカッション)」➡「4.議論のまとめ」という構造になっていることが多いです。

授業の構造

  1. 教科書を読んでから授業に出席
  2. 授業は先生の話を聞くことに集中(メモは要約程度)
  3. 議論(ディスカッション)
  4. 議論のまとめ

教科書を読んでから授業に出席

「1.教科書を読んでから授業に出席」とはリーディングアサイメント(Reading Assignment)のこと。授業に出席する前に先生が指定した読み物の課題のことを言います。主に教科書、学術論文、学術誌、関連記事などを読むことになります。課題を読んでいる前提で授業が始まるので読んでいないと授業についていけません。

このリーディングアサイメントというのが実は厄介なんです。それは読む量がかなり多いからです。次の授業までに教科書を100~ページ読んでこい、なんてのはザラだったりします。このため学生は授業のために何かしらの書物を読んでいる生活を送っています。

リーディングアサイメントがあるのは授業に出席する目的は先生に知識を教えてもらうことではないからです。授業ではディスカッションに集中したいのであらかじめ知識や内容は学生は知っておくべきと考えます。

授業中は先生の話を聞くことに集中

「2.授業中は先生の話を聞くことに集中(メモは要約程度)」とは黒板を写すのに集中するのではなく先生の話を聞いて内容を理解するのを優先するということ。もし気になるポイントがあればメモに要点だけをまとめます。授業中に教科書を一度も開かないということも多いです。授業では先生がパワーポイントなどでテーマの解説から始まります。

議論(ディスカッション)

「3.議論(ディスカッション)」はソクラテス式という方法で行われます。ソクラテス式とは先生と学生の問答が繰り返えされる授業方式です。リベラルアーツの大学教育ではディスカッションといえばこのソクラテス式を指します。これは少人数制であるからこそ機能する授業方式です。先生がまずテーマや問題をクラスに投げかけます。そして学生と教員または学生同士で白熱した議論が交わされます。

このソクラテス方式を通して学生は思考力を身に着けていきます。ディスカッションは内容が濃く積極的に参加することが求められます。ですが、授業において大切なのはとりあえず意見を出してみることです。結構ヘンテコなことをいう人もいますが先生はそれを一つの意見として取り上げて考えてみようとなるので決して学生をバカにすることはないです。

批判的思考

議論(ディスカッション)においてもう一つ重要な位置を占めているのがクリティカル思考(批判的思考)です。クリティカル思考は根拠は主張に導いているのか?根拠そのものは本当に正しいのか?根拠にどのようなデータの裏付けがあるのか?などの疑問を提示することによって主張の正当性を論理的に確かめることです。

このクリティカルという言葉は英語だとポジティブな意味で使用されることが多いです。ですが、クリティカルを日本語に訳すと「批判」となります。これは否定したり、非難したりするというニュアンスに受け止められています。例えば「彼は批判の対象となった」「批判が相次いだ」などですね。

ですが、クリティカルはどちらかというと「それ本当なの?」という疑問を投げかけているという意味合いが強いです。

このクリティカル思考を元にディスカッションが進行していきます。つまり、リベラルアーツの大学の授業は「ソクラテス方式×クリティカル思考」を中心に進んでいくと覚えておきましょう。

議論のまとめ

「4.議論のまとめ」として授業中では先生が議論をまとめてくれることが多いです。ディスカッションを通してどの様な点が明らかになったのか?次回までに考えおくべきことは何か?などをまとめます。プレゼンテーションやエッセイを書く時は自分の考えをまとめて説明または提出する必要があります。

この一連の授業の進み方は本質的に何をしているのかをまとめるとこうなります。

  1. 教科書を読んでから授業に参加➡「知識や情報を得る」
  2. 先生の話を聞くことに集中(メモは要約程度)➡「概念や関係性をより理解する」
  3. 議論(ディスカッション)➡「自分の考えを論理的に伝える」
  4. 議論のまとめ(エッセイの場合)➡「持論を考え直して説明する」

つまり「知識や情報を得る➡概念や関係性をより理解する➡自分の考えを論理的に伝える➡持論を考え直して説明する」ということを授業で繰り返していることになります。

これを見るとバランスよくインプットとアウトプットを繰り返していることに気づきます。インプットは「知識や情報を得る」「概念や関係性を理解する」そしてアウトプットは「自分の考えを論理的に伝える」「自分の論を考え直して説明する」になります。

このような構造は一方的でなく先生とのやり取りがあるからお互いに積極的に取り組もうというモチベーションに繋がっています。

3.実際の授業


リベラルアーツの大学の授業は「知識や情報を得る」➡「概念や関係性を理解する」➡「自分の考えを論理的に伝える」➡「持論を考え直して説明する」という授業の構造を説明しました。でもこれだけでは分かりづらいと思うので具体的に実際の授業に当てはめてみましょう。私が受けた社会学入門の授業を参考にしたいと思います。

1.知識や情報を得る

「知識や情報を得る」とは教科書や論文を読むことにほかなりません。教科書や二次資料を次の授業までに約80ページほど読むという課題が毎回出されました。社会学入門の授業なので内容は分かりやすいものになっていますがスラスラと読めないと必要以上に時間が掛かります。週によっては小テストが抜き打ちで授業の始めにあったりしました。これはみんなが教科書や論文を読んでいるか確認するためです。

教科書を読む上で重要になってくるのは基本的な専門用語をまず抑えておくことです。社会学では「社会」「階級」「規範」「社会システム」など一般的に知られている言葉でも社会学が定義しているのと異なることがあるので読み込んでおきます。そして、理論的なモデルなど社会学特有の考え方で少し分かりにくい箇所は読み返すことになると思います。

知識や情報をさらに得たければ大学の図書館のデータベースにアクセスして情報を入手するのが効果的です。大学のデータベースには学術論文、文献、新聞記事、書籍などが沢山あるので論文などにも引用するときに便利です。なので学生であればまず大学のデータベースを活用して理解を深めるといいです。学術的な研究は書籍や学術誌などが信頼できます。

2.「概念や関係性を理解する」

教科書の内容に書かれていた知識などはあなたはもう知っています。ですが、理論的な概念など分かりづらい部分はまだ完璧に腑に落ちていないと思います。そのため各章を読んだら自分の言葉で要約をするという方法をおすすめしています。

要約は内容をしっかりと理解していないとできません。初めは難しく時間が掛かりますが次第に慣れていき要約のスキルも上がります。そして、授業に出席して先生の解説を通してさらに理解を深めます。社会学では社会はどのように作られるのか?そして、社会の中で生きる人間の行動を説明するために3つの理論をまず学びます。

それが「シンボリック相互作用論」「紛争理論」そして「機能主義」です。

「シンボリック相互作用論」とは社会が個人を客観的に定義することではなく個人の主観的な視点から世界をどのように理解しているのかを考えます。そして、コミュニケーションで用いられる言語や記号(シンボル)が持つ意味から人間社会を理解しているのではないか、という視点です。(Carter and Fuller、2015)

たとえば、あなたが親と仲が良いのであれば「親」という言葉によい印象を抱くと思います。ですが、親との関係が思わしくなければ親という言葉の意味と象徴するものは悪いものになります。

「紛争理論」とは社会では限られた資源を求めて競争する個人で構成されており社会の秩序は合意ではなく支配と権力によって支えられていると考えています。そして富と権力を持っている人々は貧しい人たちを抑圧することによって権力を可能な限り維持しようとします。この概念はカールマルクスが提唱したと言われています。例えば、資本主義というシステムはこの紛争理論をよく表しています。

「機能主義」とは制度や規範など社会のあらゆる組織がお互いに依存していることで社会の安定が成り立っていると考えます。社会が長期的に存続するためにはこのお互いが支えあっているという構造があるという前提に基づいています。これはエミール・デュルケームによって理論化されました。

たとえば、学校教育と政府の関係はお互いに必要としています。学校教育は社会で必要とするスキルをならうことで生きていくことができます。そして、政府は人を教育することで労働から得られる税金などを将来期待できます。このような持ちつ持たれつの関係があります。

この3つの視点から社会の現象を説明できるのではないか?ということを基礎社会学では考えます。

「自分の考えを論理的に伝える」

リベラルアーツの大学ではディスカッションを中心に授業が展開していきます。ソクラテス式とクリティカル思考を元に絶えずディスカッションが進む中どういう方法で発言すればいいの?って思うかもしれません。まず初めに授業ではいかに自分の考えを論理的に伝えられるか?ということを考えなくてはなりません。そこで私が発言テンプレと呼んでいるものがあるのでそれを紹介します。それが「1.主張」➡「2.根拠」➡「3.具体例」です。

  1. 「主張」➡意見に賛成なのか?反対なのか?(またはどう思うのか?)の主張をまずします。
  2. 「根拠」➡次に主張の根拠を述べます。(なぜそう思うのか?)
  3. 「具体例」➡最後に具体例を提示します。(具体例がなくても問題ないですがあればベスト!)

「3.具体例」が思いつかなければ代わりに「裏づけ」をしても構いません。「裏づけ」とは根拠を支えるためのデータのこと。教科書、新聞記事、学術論文などを引用して根拠に裏付けをすることであなたの主張の正当性を高めることができます。根拠の証拠、とも言えます。

まとめると「主張+根拠+具体例(裏づけ)」という順序で発言すればいいです。授業では少なくともこの3つをセットにして答えられるようにしておくと自分の意見が言えたと考えられます。なので迷ったらこの型に当てはめましょう。

教科書の章の終わりには「まとめ」と「教室で議論できること」という記述があります。「まとめ」はこれまで読んできた内容を簡潔にまとめてくれています。そして、「教室で議論できること」は実際に授業のディスカッションに扱つかえる論題を提供してくれます。

教室で議論できることに「グローバル化によって私たちの生活にどのようなメリットがあるだろうか?」というテーマがあったので私の授業で採用されました。

では、これをさきほどのテンプレに当てはめてみましょう。

  • 「主張」➡グローバル化によって私たちの生活にメリットがある
  • 「根拠」➡企業の移転が容易になり急速に規模を拡大しやすくなった
  • 「具体例」➡トヨタは生産工場をアメリカに移すことで事業が拡大し国益をもたらした

または

  • 「主張」➡グローバル化によって私たちの生活にメリットがある
  • 「根拠」➡各国で分業化をすることで国内で購入する商品の価格を下げることができる
  • 「具体例」➡東南アジアなど賃金が安い国にアウトソーシングすることで国内の商品コストを下げられている

とすることができます。

もし裏付けをするのであればさきほど説明した大学の図書館のデータベースから情報を入手するのが得策です。データベースには学術論文、学術誌、関連記事があるので根拠を支持するものを探しましょう。

しかし、絶えずディスカッションが進行していると裏づけを持ち合わせていないこともあると思います。その時はなぜそうなのか?という具体例を拡大する形でさらに解説を付け加えるという方法が役立ちます。

例えば「東南アジアなど賃金が安い国にアウトソーシングすることで国内の商品コストを下げられている」という具体例に「もしグローバルな取引が行われていないとすると国内の産業を頼ることになる。それは海外にアウトソーシングをして人件費を抑えることができないことになる。となると国内の賃金が海外の賃金より高ければ国内で購入する商品はより高いものになる。」という説明ができます。

このような持論を構築する上で知っておくと便利なのが議論が持つ構造を理解することです。その構造とは演繹と帰納と呼ばれるものです。

演繹とは根拠が正しければそこから導かれる主張も必然的に正しくなる構造。そして、帰納とは根拠が正しくても主張が必ず正しくなるとは言い切れない構造のことです。

この演繹と帰納については別途解説が必要だと思うのでもう少し詳しく知りたいという人は哲学的に文章を読む方法 【リーディング編】にて解説しています。

「持論を考え直して説明する」

授業では議論のまとめは先生がすることになります。ディスカッションを通して何が明らかになったのか?次回までに考えおくべきことは何か?などをまとめます。プレゼンテーションやエッセイを書く時は自分の考えをまとめて説明する必要があります。このためディスカッションと違い考える時間を多く取ることができるのでより深い思考ができると思います。

社会学の授業ではグループプレゼンテーションと論文(エッセイ)という2つの課題がありました。

グループプレゼンテーションは1学期を通して1回。各グループの議題はくじびきでランダムに決定されました。私たちのグループの議題は「教育」でした。グループで集まったらどんなプレゼンにするのか?誰が何を担当するのか?リサーチやパワーポイントの作成は誰が行うのか?を決める必要があります。

グループで図書館で集まってプレゼンの予行練習やメンバーとのコミュニケーションを円滑に図れるようにします。私は日本ではどのような教育が行われているのかをプレゼンしました。

論文(エッセイ)は1学期を通して3本。1本あたり約7ページほどの長さ。約2200文字程度。エッセイの内容は先生が指定するテーマから選んで書くというものでした。

社会学のエッセイは様々な観点から書くことができます。それがさきほどの社会学の3つの理論で社会の現象を説明してみようということです。同じ現象を異なる見方で解釈すると違ったことが見えてくることがあります。この視点の違いを理解した上でエッセイを書いたりします。

たとえば、「家族」という社会が考え出した制度について「シンボリック相互作用論」「紛争理論」「機能主義」という3つの視点から考えるとどのような解釈の違いがあるのか見てみましょう。

「シンボリック相互作用論」は人の欲求を満たすため、そして意味のある関係を構築したいから家族があると考えます。そして、社会的な人間のスキルや自我を獲得するためにも存在していると解釈します。

「紛争理論」は家族単位の力を維持するため。そして、より社会で支配的な価値観を教えることで力関係を生み出していると考えます。「機能主義」はお互いの利益を考えて社会的に安定を維持するため。社会における規範や価値観を教えるためにもあると考えます。

このように家族についての3つの解釈を述べたものをエッセイにすることができます。

さいごに

リベラルアーツの大学の授業がどのように進むのかというイメージはできたでしょうか?これからも関連記事を投稿していくので読んでいただけたら幸いです。


ではまた