リベラルアーツの大学教育【基礎知識編】
こんにちは、ケンズです。
リベラルアーツって言葉を聞いたことあるけどよく知らない。リベラルアーツ教育って何?リベラルアーツの大学ではどんな教育をしているの?リベラルアーツの大学基礎知識を教えてほしいって思ってませんか?
本記事はこういった疑問に答えます。
記事の信頼性
この記事を書いている私はリベラルアーツの大学卒なので詳しく解説します。
本記事の内容
- リベラルアーツについて
- リベラルアーツの大学基礎知識
1.リベラルアーツについて
リベラルアーツという言葉はラテン語の Liberalis(自由)とArs/Artes(学術)が語源であるとされています。奴隷と自由民に分けられていた古代ギリシャの時代。奴隷の主な活動は下働きであり専門職としての知識は低俗なものと認識されていました。
反対に自由民は古代ギリシャにおける集会に参加して政治討論をするために幅広い知識を身に着ける必要がありました。それがリベラルアーツ教育でした。つまり、政治に参加するためには幅広い知識が必要だったのでリベラルアーツの教育が行われていたのです。古代ギリシャではリベラルアーツの教育は2つに分類されていました。
トリビウムは文法(grammar)、修辞学(rhetoric)、論理学(logic)の三学科を指します。文法は語彙、構文、文学的な分析などの言語の研究に焦点を当てました。レトリックは説得力のある話し方と書き方、そして、論理学は推論と批判的思考のことです。
クアドリヴィウムは幾何(geometry)、天文(astronomy)、音楽(music)、算術(arithmetic)の四学科で構成されていました。算術と幾何学は、数学と自然界を理解するための基礎でした。音楽にはハーモニー、リズム、作曲の研究。そして、天文学には天体と宇宙の研究が含まれていました。
この2つを合わせて自由七科と呼んだりします。これらは知的スキル、コミュニケーション能力、芸術と科学を養う包括的な教育の基礎を形成しました。リベラルアーツは知恵、雄弁、市民の責任などの美徳を養うために不可欠であると考えられており、古代ギリシャやローマでは高等教育の基礎を成しました。
リベラルアーツの教育は自由になるための教育とも言えます。でも、自由になるとはどういう意味でしょう?私達は生まれ育った時から国や文化、風習、親や友達といったさまざまな環境的な影響を受けて育ちます。そのため無意識に育ちや環境によって作られた価値観が私たちに根強く存在しています。
たとえば、高校や大学に行くこと。会社で勤務をすること。結婚をして家を購入するなど受け継がれてきたことに対しすんなりと受け入れてしまっています。これらはあまりにも当然だと考えられてしまっているので疑問に思うことすらないかもしれません。ですが、これでは自由とは言えないです。なぜなら自由とは過去の思想や慣習、常識から解放されて束縛されることのないことを意味するからです。
つまり、私たちが本当に自由になるためには過去から解放されること、そして自分が持ち合わせている思考の枠を超えて考えて行動ができるのか?ということが自由に生きていくことでありリベラルアーツの大学教育の理念でもあります。
2.リベラルアーツの大学基礎知識
アメリカには約200以上の私立のリベラルアーツの大学があります。多くが学部教育を行なう私立の4年制大学です。一部のリベラルアーツカレッジでは修士号や学士号などいくつかの大学院プログラムを提供していることはありますが学部教育が中心の大学です。
学生数は約500人~数千人と大学の規模としては小さいです。最も古くて権威のあるリベラルアーツカレッジの多くが北東部の地域に設立されたという歴史があるのでいまでも多くは東部に集中しているという特徴もあります。
リベラルアーツの大学は郊外に位置しているため周りは自然に囲まれておりキャンパスが広くゆったりとした雰囲気に包まれています。学生や教員も気さくな人が多く気軽に立ち話などができる関係性があります。小さなコミュニティなのですれ違いに知り合いとばったり会うことも多いです。
リベラルアーツの大学は勉強を中心とした大学生活であるということ。このため学生は授業や課題を毎日こなしており優秀な成績を収めたいという意識が強いです。
学生の多くはキャンパス付近の寮または賃貸で暮らしています。教室棟、食堂、ジムへのアクセスなどもすべて徒歩圏内にあります。そのため無駄に時間を費やすことなく学業に集中できます。リベラルアーツの大学は流動性が高く、学科の変更、留学生の受け入れ、他大学への編入なども一般的です。
リベラルアーツの大学は教育型の大学に分類されます。教育型の大学は優れた教育と学生の参加を重視します。教員の多くは学生を育てるという意識が強く教育熱心であると言えます。教育型の大学では教授の評価は研究ではなく教育実績や学生からの評価で決まるという側面があります。
教育が中心なので既定の時間を超えて教授が研究をすることも大学によっては制限を設けています。教授は研究、論文発表や出版などの業績を上げなくてはならないというプレッシャーも少ないです。
リベラルアーツの大学で学べる学問
- 自然科学:数学、物理学、生物学、化学、天文学
- 社会科学:経済学、政治学、環境学、心理学、文化人類学、社会学
- 人文科学:哲学、歴史学、宗教学、文学、言語学、演劇、芸術
自然科学Natural Science
自然科学では特定の分野における科学的調査の原理、理論、方法、および応用について学びます。自然現象と科学プロセスについての理解を深めるために実践的な実験、フィールドワーク、データ分析、批判的思考の演習に取り組みます。自然科学教育は私たちの周囲の世界を理解し、社会が直面する複雑な課題に対処するための基礎を提供します。
社会科学Social Science
社会科学では各分野に関連する理論、概念、研究方法を学びます。データを分析し、証拠を吟味し、社会現象や人間の行動を批判的に評価する方法を学びます。社会科学教育は人間社会の複雑さについての洞察を提供します。学生にさまざまな分野でのキャリアを準備させ世界とその中での私たちの位置についてのより深い理解を促します。
人文科学Humanities
人文科学では歴史を通じて人類の文明を形作ってきた考え方、価値観、表現を探求します。テキスト、工芸品、文化的な現象を批判的に分析し、時間と空間を超えた人間の思考と創造性の多様性を評価する方法を学びます。批判的思考、共感力、文化的リテラシー、人間の状態についての複雑な考えや疑問に取り組むよう学生に奨励します。
人気のある学科
- 生物学(Biology)—科学、数学、歴史を研究することで生き物の内部の働きを明らかにします。
- クリエイティブライティング(Creative writing)—物語を作り書かれた言葉を通してコミュニケーションすることを学びます。
- ファインアート(Fine Art)—アートの作成を学びながらビジョンと創造性を養います。
- 歴史(History)—戦争から政治運動まで私たちの世界に与える影響を考えます。
- 政治学(Political Science)—政府のシステムの研究。
- 心理学(Phycology)—人間がどのように考え私たちの脳と行動に影響を与えるかを学びます。
- 社会学(Sociology)—社会がどのように構成され人々のグループがどのように相互作用するかを紐解きます。
リベラルアーツの学位
リベラルアーツの大学を卒業して取得できる学士号には、教養学士(BA:Bachelor of Arts)、美術学士(BFA:Bachelor of Fine Arts)、または理学学士(BS:Bachelor of Science)の3種類があります。 BAの学位は人文科学と社会科学、BFAの学位はクリエイティブな執筆や演技などの芸術分野、BSの学位はビジネス、数学、科学などの技術分野に授与されます。
リベラルアーツの大学ランキング
アメリカのリベラルアーツの大学ランキングの上位10校は以下になります。あまり見覚えのない大学名が連なっていると思います。しかし、教育関係者は小規模のリベラルアーツの大学の教育の良さを知っているので自分の子供の進学先の候補として考えてたりします。
- Williams College(ウィリアムズ大学)
- Amherst College(アマースト大学)
- Swarthmore College(スワースモア大学)
- Pomona College(ポモナ・カレッジ)
- Wellesley College(ウェルズリー大学)
- Bowdoin College(ボウディン大学)
- Claremont McKenna College(クレアモント・マッケナ大学)
- United States Naval Academy(海軍兵学校)
- Carleton College(カールトン・カレッジ)
- Hamilton College(ハミルトン・カレッジ)
U.S. News & World Report L.P. National Liberal Arts Colleges Rankings
文理融合と専攻
リベラルアーツの大学では文理融合が教育の基本であると考えています。文理を分けることなく一般教養を学ぶことが大切だとされているので必修科目として文系と理系の科目の両方を履修することが卒業条件の1つになります。社会科学、人文科学、自然科学、学際、文化分析などの科目から選ぶことになります。
アメリカの大学入試(SAT/ACT)では「英語(リーディングとライティング)」と「数学」の両方を受けるので文系と理系には分類されません。それはリベラルアーツの大学に入学してからも同じです。
文系科目が得意な学生に理系の授業を履修させるのは厳しいのでは?と思うかもしれません。しかし、基礎的な理系の科目を取れば必修科目を満たすことができます。なのでそこまで理系科目が得意である必要はないです。私は天文学や統計学の授業を履修することで必修科目を満たしました。
そして、リベラルアーツの大学では専攻(学科)は2年生の終わりに決めます。時間をかけて専攻を選ぶのでかなり幅広い教科をそれまでに履修できます。これもリベラルアーツの教科を広く学ぶことによって教養を身に着ける教育と関係する考え方です。
もし自分は大学で何を専攻すればいいか分からない。でも、いろんな授業を受けてから専攻を決めたいって人はリベラルアーツの大学に向いていると思います。
少人数制の授業
リベラルアーツカレッジの最大の特徴として授業が少人数制であるということです。1つのクラスあたりの学生数は平均10~15人しかいません。「学生」対「教授」の比率もアメリカの州立の大学と比べても低いです。私が受けた授業では学生数が5人という授業もありました。
少人数制の授業のメリットとしては教育の濃度が高い授業を受けられることが挙げられます。少人数だと学生と教員、または学生同士の議論に参加する機会が多いです。そのため学生の学ぶ意欲や積極性を高く維持できています。基礎クラスなどでは講義形式を行う授業もあります。しかし、たいていの授業は少数精鋭のクラスです。
ソクラテス方式
リベラルアーツの大学の授業は「アウトプット型」と呼ばれる方法で学ぶことが重視されます。アウトプットとは学習や経験によって得たことを人に教えたり、学んだ内容をアウトプット(発信)することで知識の定着を図る学習法です。アウトプット型の授業ではディスカッション、プレゼンテーション、ディベート、論述式のテストなどが行われます。
アウトプット型ではディスカッションを中心にテーマに沿った議題を生徒と先生が問答形式で意見交換するという形式になります。これを「ソクラテス式(問答形式)」と呼びます。このソクラテス方式を採用している理由は知識の定着を図るためだけではありません。議論を通して論理的思考(Logical reasoning)と批判的思考(Critical Thinking)を伸ばす方法として優秀だと考えられているからです。
自分の考えは論理性はあるのか?自分の主張にはどのような根拠があるのか?ほかにはどのような回答が考えられるか?予想される反論はあるだろうか?など異なる意見に触れることで多角的な視点から議論を考える力を身に着けます。これはリベラルアーツの大学教育の基礎的な考え方として根付いています。
授業期間
リベラルアーツの大学では9月から翌年の5月までの9ヵ月の期間を1年度としています。そして、1年度を秋学期と春学期の二つの学期に分けるセメスター制を導入しています。1学期は約15~16週間(約4か月)になります。
- 秋学期(Fall Semester):8月下旬から12月下旬
- 春学期(Spring Semester):1月下旬から5月中旬
セメスター制の特徴
セメスター制の特徴は単位の取得が1学期間で完結するということです。
- 秋学期:10月中旬に中間テスト➡12月に期末テスト➡単位取得
- 春学期:3月中旬に中間テスト➡5月に期末テスト➡単位取得
テストの期間は目安になります。これは教員と学生のスケジュール調整で変更されることがあります。授業によっては試験期間中ではなく授業中に期末テストを実施することもあります。中間と期末テストは必ずしも試験形式ではありません。論文提出やレポートを試験とすることもあります。
休み期間
- 秋学期➡秋休み3日。感謝祭休み4日。
- 冬休み➡12月~1月(約3週間~4週間)
- 春学期➡春休み8日
- 夏休み➡5月~9月(約3か月)
入学と卒業時期
入学時期は9月または1月の2回。卒業時期も5月または12月の2回となります。しかし、卒業式は5月の春学期の1回だけです。
- 入学時期は9月または1月
- 卒業時期は5月または12月
リベラルアーツの大学は流動性が高く入学、編入、留学生などの入れ替わりが頻繁にあります。リベラルアーツの大学は既定の単位さえとれば卒業ができます。卒業時期が年に2回あること。そして在籍年数と関わらず卒業できます。頑張れば3年で卒業するということもできます。自分の都合に合わせて入学、卒業を考えることができます。
年間カレンダー
秋学期開始 | 8月23日~ | 新入生到着日 |
8月24日~27日 | オリエンテーション(新入生、留学生のみ) | |
8月27日~ | 科目登録(新入生のみ。留学生は事前登録する大学もあり) | |
8月28日~ | 学生到着日 | |
8月29日~ | 授業初日 | |
9月6日~ | Add & Drop最終日 | |
(10月14日~11月3日) | 中間試験期間 | |
10月17日~20日 | 秋休み | |
10月31日~26日 | 春学期の科目登録 | |
11月27日~12月1日 | 感謝祭休み | |
12月13日 | 授業最終日(単位落とせる最終日) | |
12月16日~20日 | 期末試験 | |
12月21日~1月19日 | 冬休み | |
春学期開始 | 1月20日 | 学生到着日 |
1月21日 | 授業開始 | |
1月29日 | Add & Drop最終日 | |
(3月6日~29日) | 中間試験期間 | |
3月7日~15日 | 春休み | |
4月13日~30日 | 秋学期の科目登録 | |
5月5日 | 授業最終日(単位落とせる最終日) | |
5月7日~11日 | 期末試験 | |
5月11日以降 | 卒業式 | |
5月12日~8月下旬 | 夏休み |
単位について
1学期あたり平均単位取得数は15単位。1つの授業は平均3単位なので平均すると1学期間で5つの科目を履修します。1学期の平均取得単位が15単位であれば1年(2学期)で15×2=30単位となります。もし大学を4年で卒業するのであれば➡「4年×30単位=120単位(卒業に必要な単位数)」という計算になります。
- 1学期あたりの平均単位取得数は15単位
- 1年(2学期)は15×2=30単位
- 4年×30単位=120単位(卒業に必要な単位数)
単位の取り方にも種類があります。授業を履修、留学、課外活動、ボランティア活動、オンライン授業、インターン、他の大学からの単位を移すなど複数あります。一般的な授業だけではなくそのほかの活動も単位に換算することができるので”授業=単位”と考えないで視野を広げてみましょう。
授業の日程
授業の日程は月曜日、水曜日、金曜日が50分~。火曜日、木曜日が110分~となっています。月曜日に履修している授業は水曜日と金曜日の同じ時間帯にあるということです。そして火曜日にある授業は木曜日の同じ時間帯にあります。土日は休みとなってます。
スケジュールの具体例
仮に以下の5つの授業を履修していたとしましょう。
授業名:COM101-300(ピンク色)
曜日:月、水、金
時間:10:00-10:50分
授業名:MAT301-800(青色)
曜日:月、水、金
時間:12:00-12:50分
授業名:CSC380-802(橙色)
曜日:月、水、金
時間:1:00-1:50分
授業名:ART380-001(黄色)
曜日:火、木
時間:9:00-10:50分
授業名:CRM105-806(緑色)
曜日:火、木
時間:2:00-3:15分
それを授業スケジュール表に入れるとこんな感じになります。理系科目でラボ(実験)は変則的なスケジュールだったりします。
注:実験や美術系の授業は長くなるので時間は目安と考えてください。
履修について
前学期(秋学期の履修であれば春学期に、春学期であれば秋学期)に自分が取りたい授業を大学のウェブサイトでオンライン履修登録をします。学期の授業初日から1週間程度、履修科目を変更できる期間があります。興味のある授業があれば出席して追加しましょう。または必要ない授業は落としましょう。
1~2年生は必修科目と自分の興味のある科目の両方を履修していろんな学問に触れることが推奨されます。3~4年生では必修科目と専門科目に専念することになります。
リベラルアーツの大学では授業の最終日まで単位を落とすことができます。単位を落とす理由としては成績が思わしくない時が多いです。学期の終盤で成績が思わしくなければ計画的に単位を落とすことで成績に影響しません。これは大学院に進みたい学生にありがちです。
いったん単位を落として来年同じ授業で優秀な成績を取るという方法ができます。単位を落としてまでいい成績とる必要ある?って思うかもしれませんが大学院に進む人にとっては大学の成績は大事なのです。
リベラルアーツの大学生活について詳しく知りたい人は参照:>>リベラルアーツの大学生活【生活基礎知識編:その1】をご覧ください。
大学院
アメリカの大学およびリベラルアーツの大学では法学と医学の学位は取れません。法律または医学の学位が欲しければ大学院へ進学することになります。リベラルアーツの大学の卒業生は大学院進学率も州立の大学と比較すると高いです。
もし法律の大学院(法科大学院)について知りたい人は参照:>>リベラルアーツの大学教育【ロースクールに入学する方法】をご覧ください。
そして医学の大学院(メディカルスクール)については参照:>>リベラルアーツの大学教育【メディカルスクールに入学する方法】をご覧ください。
まとめ
本記事では一般的な基礎知識としてリベラルアーツについて紹介しました。これからも関連する記事を投稿していきます。
ではまた